✅ 本サイトは、牡蠣を起点として、環境・文化・人間の関係を記録しています。
✅ 筆者は、接客業、ゲーム制作、食文化、環境デザインの現場を通じて、人と環境の相互作用を観察してきました。
✅ 本稿は、資料的記述だけでは捉えきれない感覚や構造を伝えるため、現場から得た知見を、物語形式で記録した短編(シン小説)です。


本編ーーー👇

満月の夜だった。

理由もなく、外に出て、空を見上げていた。

そういう夜が、たまにある。

牡蠣は、干潟の生き物で、  
潮の満ち引きに合わせて生きている。

その潮は、月に引かれている。

だからきっと、牡蠣もまた、月に引かれている。

満月の夜、  
彼らは一斉に、海に放つ。

精子と卵子を。

いわゆる海中受精だが、  
そんな言葉は、あまり意味を持たない。

重要なのは、「一斉に」ということだ。

誰が決めたわけでもないのに、  
同じ夜、同じタイミングで、それは起きる。

満月の夜、海が白く濁るほどに。

彼らは、どうやってそれを知るのだろう。

合図もなく、連絡もなく、  
ただ同じ瞬間に、同じことをする。

考えてみれば、人間も似たようなものかもしれない。

満月の夜になると、  
人は月を見上げる。

見上げる必要なんて、
どこにもないのに。

それでも、見上げる。

女性の月経が、月に左右されるという話がある。

本当かどうかは知らない。

でも、そう考えたほうが、いろいろ辻褄が合う気がする。

月は、引っ張る。

海を、体を、  
そして、たぶん思考も。

気づかないうちに、少しずつ。

古い暦は、月を基準にしていた。

一月、二月、三月。

「月」という単位で、時間を数えていた。

今はもう違う。

けれど、身体のどこかには、  
そのリズムが、まだ残っているのかもしれない。

月には、兎がいるらしい。

本当にいるのかどうかは知らないが、 昔から、そういうことになっている。

団子でも買おうと思って、  
夜のコンビニに入った。

棚を見ても、それらしいものはなかった。

代わりに、鶏つくねの串が並んでいた。

丸くて、連なっている。

まあ、似たようなものだろうと思った。

そういえば、兎(うさぎ)は、酉(とり)だね……。

なんだか、急に申し訳ないような気になりつつも、レジに持っていくと、店員が、少しだけこちらを見た。

そのとき、ふと耳元で、誰かに囁かれたような気がした。

「取り憑くね」

振り返っても、誰もいない。

外に出ると、満月だった。

やけに明るい。

しばらく見ていると、  
自分が見上げているのか、  
それとも、見られているのか、  
わからなくなった。

月に引かれ、惹かれて。

ふと遠くの海で、  
ナニカが一斉に、  
動き出している気がした。


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